2018年06月01日

映像ライブラリー/齋藤 嘉博

  終活でこれまでのさまざまな書類、データーを整理していますと思わぬ、すっかり忘れていたものが見つかります。そのなかに「隠し味を味わってみよう」という一文を見つけました。
  私が1989年に武蔵野美術大学に職を頂いたのは吉田直哉先生と一緒にこの大学に新しく映像学科をつくるためでした。様々な紆余曲折はありましたが、スタジオや編集実習設備も整って無事開講。その経過の中で私が是非にと提案し設立した施設に「映像ライブラリー」がありました。以下は当時そのライブラリーの開設を紹介した一文です。

  隠し味を味わってみよう
「ヒチコックの映画はどれもこれも好きですが、たくさんある中でも裏窓は面白かったですネエ。どうして面白いかというと……」。淀長さんは例の口調と同じトーンで映画物語を書いていますが、街に映像の氾濫している今でも、いや今だからこそ映画は本当に面白い。そこに出演する俳優やキャラクタと一緒になって生き、喜び、泣き、悲しむことができるのです。でも映画を楽しむのならやはり映画館にいかなくではいけないでしょう。大型スクリーン、音響効果、そして何よりも暗くて画面に集中できる、画面に浸りこんでいける雰囲気。監督も当然こうした状況を意識して映画を作っているのです。しかし映画館では「あ!ちょっと、そこもう一度見せて」なんていうわけにはいきません。そこにライブラリーの意味があるのです。
  時間とともにどんどん流れていってしまう映画。これから映像をつくろうとする諸君たちが映画を本当に理解するためにはとことんまでその良さを味わい、分析することが必要です。それには監督の意にはやや反するでしょうが、あるところでポーズをかけ、スローにし、あるいは何回も繰り返してみる。そうすると見逃していたたくさんの事実が浮かび上がってくるんです。「へえこんなところにこんなものを撮っている」「ここにちらっと映ったものが重要だったんだ」なんていうたくさんの発見があるでしょう。それが映画の厚みとして、隠し味として画面を通じて観客に伝わってくる。そして監督の深い意図と工夫が何回観ても飽きない映画の面白さを構成しているのです。
  いまこのライブラリーには300ほどの映像があります。一番古い映画は1895年にルミエールがグランカフェの地下で上映した最初の映画“工場を出る女”。いや実はその前にエジソンが作った“くしゃみ”のほうが古いネ。そこから100年ほどの時間を経て現代のコンピューターアニメーションに至る映像。それに映画製作の裏話を描いたMakingもあればドキュメンタリ制作のお手本になるビデオもあります。こうしたたくさんの映像に接しながら、英語や小説を書く勉強をするように、映像が語りかける言葉を勉強してほしいのです。そのためにさまざまの検索手段が整っています。そしてライブラリーのスタッフたちは君たちの勉強の大変いい助っ人になるでしょう。

  当時コンピューターはまだ検索のスピードが遅く、システムの構成にはずいぶん苦労をしました。映像ライブラリーはその後歴代のスタッフ諸兄姉が育て上げて、現在は10年ほど前に新築された立派な図書館のなかに置かれ、17,000点ほどの作品を収容し、講座などの開設を含めた活動を行っています。興味のある方は武蔵野美術大学のホームページ  http://mauml.musabi.ac.jp/ をご覧ください。
posted by でんきけい at 00:00| Comment(1) | 斎藤さんのお話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 斉藤兄が「映像ライブラリー」の設立に奔走されたことを知り感銘を受けました。私も元気であればゆっくり訪れて堪能したいところですが、外出できない身になって残念です。これからは、ホームページで楽しむことにします。映画に限らず、アナログ文化の保存は極めて大切であると思っています。
 映画「裏窓」は、映画館や、テレビ、DVDで何度も観ました。2004年にモナコを訪れた時は、グレース・ケリー王妃の数奇な運命に感無量でした。
Posted by 大橋康隆 at 2018年06月06日 16:01
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。