2020年09月01日

観光時代/齋藤 嘉博

  前稿に小林兄から頂いたコメント、「大本営、大政翼賛会」と、なるほど言いえて妙ですネ。そして「東部軍管区情報、B29百機が大子上空を西南に飛行中」のラジオを聴きながら灯火管制の暗い部屋のなかでじっと耐えた頃を思い出しました。
  今の「マスク」はさしずめその時代の防空壕といったところでしょうか。そして焼夷弾ならぬコロナ菌の雨。でもこうした比喩を理解できる人も少なくなりました。
  コロナを恐れての灯火管制、外出自粛で一番大きな痛手を受けたのは観光業界のようです。広い駐車場にお客のないバスが並び、空港に飛行機が並んでいるのを見るとこのパンデミックの脅威についての実感がわいてきます。
  イリンクス、遊びの中でも旅は身体にも頭脳にも心にも大切なひと時。日常の生活から離れての時間。このブログ欄にもたびたび諸兄の海外旅行のお話を読ませて頂きました。大橋兄が大きな荷物をもってあれだけの旅をするのは大変。あらかじめの計画もトーマスクックやミシュランと格闘をして組まれたものと思います。私のアメリカドライブにしてもランドマクナリーの地図とAAA、ハーツの地図での計画策定でした。そして実行、記録(反省)と三度の楽しみと学びを得ることが出来る機会なのですから。子供たちが夏休みも短く、修学旅行もできずに旅の経験をコロナのために逃したとき、その明確な関連を見つけ出すことは難しいでしょうが、将来の発育に大きな障害が出るのではないかと心配です。
  このところ観光はブーム。バブルといってよい状況でした。観光白書(令和元年版)によれば日本人の海外への出国数は2018年に1900万人。一人当たりの回数にすると0.14回で、世界で18位とランクは下のようですが、ランクの上位は地続きの欧州の国々ですから地の利が違います。一方外国人の訪日人数は同じ年に3,000万人をこえているのです。この数値は2014年に比べて2.4倍。そのうちの27%が中国人、24%が韓国人。日本の美を楽しむよりは買い物に血眼。瀑買いなんていう言葉ができる時代ですから、バブルと言っていいでしょう。それにともなって様々な弊害も出てきています。春、お花見の頃の上野公園には大声で騒ぐ沢山の中国人。墨堤のお花見なんていう風流はどこへやら。一昨年の春、金閣寺を訪れた折にはあの鏡湖池の周辺がラッシュ時の新宿駅のホームのような混雑でした。観光収支は大幅に2.3兆円の黒字で、お国は稼いでいるつもりでしょうが私たちにとっては迷惑至極。迷惑よりもお客さん方ご自身も十分な観光の楽しみを感じていないのではないかと思います。京都の神社、仏閣は静かな佇まいの回遊式庭園が売り物。いや感じてほしいことなのでしょう。それがラッシュアワーなのですから。
  昨年この欄でご紹介したカチカチ山の山頂にしても富士山の展望がよい場所は新宿駅なみ。しかし一歩離れて三つ峠へのハイキングコースに入るともう人気はまばら。出会ったのは日本人が数人と外国はスウェーデンから来られた若い方一人でした。観光1.jpg
カチカチ山頂の混雑
  スイス、あるいはフランス、ドイツ、チロルなどアルプス地方をハイキングしているとそのあたりの観光施設が大変充実しているのに気付きます。グリンデルヴァルトから少し下ったグルントでロープウェイに乗り、メンリッヒェンに上がってここからクライネシャイデックまでのほぼ1時間半のハイキングは初心者のためのコース。観光2.jpg
メンリッヒェンから
クライネシャイデック
  何度か歩きましたが、正面にユングフラウとメンヒの頂、左下に広がる森を見ながらアップダウンもほとんどない、ゆったりとした歩きは素晴らしい感触でした。モンブランの裾野に位置するシャモニーからも縦横に登山電車、ロープウェイが用意されていて、モンブランの優しい山姿やグランドジョラスの威容を心行くまで楽しむことが出来るのです。チューリッヒには山岳交通の様子を上手に紹介した博物館があってロープウェイやアプト式鉄道の様子を楽しく勉強することができました。
  こうしたコースを歩きながら感じるのは日本の山々を歩くのとの違いです。それは森。日本の山を歩く道のほとんどがアップダウンンのきつい森の中であるのに気付きます。アルプスにはヴァルトと名付けるところは沢山あるのですが、多くのコースは木々のない展望のよい道。したがってどこもユングフラウやマッターホルンの山容を眺めながら歩くことが出来ます。わが国でのハイキング道では展望台として作られたところ以外での見晴らしはほとんどない。その代わりに木々と落葉、豊かなフィトンチッドの香り、谷合を流れる清冽な水と滝を思う存分に楽しむことができる。
  昨年このブログでご紹介した天城街道では私の歩いた道のすべてが太郎杉の森のなかでした。観光3.jpg観光4.jpg
踊子街道杉の道踊子街道七滝
  秋田の白神山地のブナ林を歩くなんていいでしょうネ。関東近郊の軽井沢、那須、日光などには白樺を含め、木曽路には檜、サワラなど。アルプスのような寒冷地、南アジアのようなジャングルとは違った温帯地域の恵みをもっているのです。ただわが国のハイキングコース、よく出来ているのにメンテが悪い。完成したときには大変に快適なコースなのですが、しばらくすると道は落葉に埋もれてわからなくなり、道標は朽ち、橋は錆びて歩く快適さが失われてしまっているのです。ということで観光立国を目指すのでればお土産屋さんの振興も大切ですが、ハイキングコースの充実と森全体を健康に保つためのメンテナンスに力を注ぐことが必要でしょう。

  しかしとにかくコロナが納まらないと何処にも出かけることが出来ません。と家で文句を言っているこの頃です。
posted by でんきけい at 00:00| Comment(2) | 斎藤さんのお話 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
斎藤さんの旅のお話はいつも感心して拝見しています(よくもこの様に世界のあちこちを周っているものだ!)。今回もお話から私の記憶の底に沈殿していた事が引き上げられました。
 Rand McNallyのRoad Atlasは懐かしいです。私も良く使っていて今も1959年版と77年版を持っています。77年版は綺麗なカラー印刷で何かあると見て居ます。またAAA(American Automobile Association)のTour Bookは1977年版を中心に10冊位保存しています。これで米国で泊った宿の大半をカバーしていて今でも懐かしい記録です。それから日本の名勝写真も綺麗ですね。河津七滝は私も歩きました。
 それにしても今年は暑い日が続きます。私は8月後半辺りから体が付いて行けず、何事にも気合が入りません。加齢とはこんなものかとじっとして居ます。斎藤さんも、諸兄もどうかお大事にお過ごしください。
Posted by 小林凱 at 2020年09月04日 17:07
大分あちこちに遊びに行きましたが、アフリカまで飛ばれている貴兄には遠く及びません。
Posted by サイトウ at 2020年09月08日 09:43
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